妊娠のしくみ:不妊症・不妊治療の基礎
不妊に悩んでいる人は、どうして妊娠しないのか、と日夜頭を悩まされているでしょう。しかし、どうして妊娠しないのか、を理解するには、そもそも妊娠というのはどうやって成立しているのか、について理解を深めることが先決です。これを理解すれば、おのずと、どこのところに問題があって不妊になるのかが理解できるようになるはずです。
(卵巣から始まる物語)
女性の卵巣は、男性でいうと精巣(睾丸)に相当します。男性の精巣は精子の製造工場ですが、女性の卵巣にも、卵子のもとになる原始卵胞(げんしらんぽう)が100万個から200万個あって、毎月の排卵に備えているのです。
毎月、生理が近づくと、脳から性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)が分泌されます。このホルモンは、排卵させる原始卵胞を育てるはたらきを持っています。
原始卵胞は、一度に20個ほど成長しますが、排卵日に排卵されるのは、20個のなかのたった1個だけです。それ以外の卵胞は消えてなくなります。
排卵される卵胞のことを主席卵胞と呼びます(中国のエライ人の肩書きみたいですね)。主席卵胞は、一番大きくて成長のいい卵胞です。
(排卵→卵管)
排卵日が近づくにつれて、主席卵胞はいつ排卵されてもいい程度に成熟を遂げています。排卵時の卵胞のサイズは20oほどです。ホルモンの関係でいうと、排卵間近のこの時期になると、卵巣からエストロゲン(卵胞ホルモン)が分泌され、「いつ排卵してもいいほどに卵胞は成熟しているよ」というサインを脳に送るのです。
卵巣から送られてきたサインを受けて、脳は、同じ卵巣に指令を出します。つまり、排卵しなさい、という指令です。この指令には、黄体化ホルモン(LH)が使われます。
そういうわけで、いよいよ排卵です。
排卵というのは、卵巣から卵胞が外に飛び出すことです。成熟した卵胞は、卵巣の外皮を破り、卵巣から外に出てから、今度は卵胞自身も破裂して、卵胞から卵子が飛び出てきます。つまり、排卵では、卵巣と卵胞が2重に破裂するのです。この2重の破裂によって、やがて精子と結ばれることになる卵子が出てくるというわけです。
飛び出した卵子がいる場所は、腹腔内です。そして、この卵子を捕まえようと待ちかまえていたのが卵管で、卵管の先の部分である卵管采(らんかんさい)というところで、卵子を吸い取るのです。
そうやって、卵子を取り込んだ卵管は、その卵子を、卵管膨大部(らんかんぼうだいぶ)と呼ばれる卵管内で最も広い場所に移送します。卵子を移送する際、卵管の壁面では、繊毛(せんもう)を総動員させます。
さて、ここでちょっと前のところに戻りますが、卵巣と卵胞の2重の破裂で卵子が飛び出した際、破裂の後にのこされた卵胞では、黄体が形成されます。そして、プロゲステロン(黄体ホルモン)が分泌されます。このプロゲステロンは、子宮に、いま排卵が行われたよ、というサインを送る役目を果たします。
プロゲステロンからサインを受けた子宮では、やがて受精卵がやってきてもいいように、子宮の内膜を厚くする作業を開始します。子宮の内膜とは、受精卵のベッドになる部分です。
(射精→受精)
話は元に戻ります。卵子は、卵管膨大部という場所に移送されてきています。卵子は、ここで精子がやってくるのを待つのです。しかし、待つといっても、卵子には卵子の寿命があって、タイムリミットというものが存在します。
卵子の寿命は、12時間〜24時間。
ということは、受精卵となるには、卵子が卵管膨大部にやってきてから、遅くとも24時間以内に精子と出会わなければならないことになります。それ以上時間がたつと、たとえ精子がやってきても、すでに卵子は死滅しているので、受精することはできないのです。
そこで、今度は、相手となる精子の話です。
膣に射精された精子は、いったん子宮の下部にあたる、子宮口のところに留まっていて、やがて、卵子をめざして一気に泳ぎを開始します(顕微鏡で見ると、実際に「泳ぐ」様子が見えます。かわいくもあり、いじらしくもある動きです)。
一度の性交によって射精される精子の数は、8,000万個から3億個ですが、卵子が待ち受けている卵管膨大部までたどり着くのは、1000個程度といわれています。
精子は、卵管膨大部にたどり着くまでの間、子宮頸管→子宮→左右の卵管といった器官を通過しなければならず、その過程で、どんどん数が減っていくわけです。
そうやって、ようやく卵管膨大部にたどり着いた1000個ほどの精子たちは、われこそはと卵子に群がっていきます。群がった精子たちは、めいめい頭部から酵素を放出します。この酵素によって、卵子の外側にある透明帯(とうめいたい)を溶かそうというもくろみです。
結局、卵子の透明帯を溶かし、卵子の細胞膜のなかに入ることが許される精子の数は、1個だけです。この1個が、やはり1個の卵子と受精するのです。
(受精→着床=妊娠成立)
卵子と精子が受精したものを、受精卵と呼びます。そして、この受精卵ができる際に、とてもドラマチックな現象が起こることをご存じでしょうか?
受精は、1個の卵子と1個の精子が結ばれることですが、上記のように、精子は1000個ほどがわれこそはと卵子に群がり、卵子の細胞膜の中に入ろうと突進しているのです。したがって、もしも1個の精子が細胞膜のなかに入りかけたら、他の精子たちもいっしょに入ろうとするはず。
ところが、1個の精子が中に入ってくると、卵子は、入ったその瞬間、即座に、細胞膜を硬く変化させるのです。そのことによって、他の精子の侵入を防止するためにです。
さて、受精卵ができあがると、卵子の核と精子の核が合体します。そして、細胞分裂を繰り返していきます。細胞分裂は、2分割、4分割、8分割、16分割と、繰り返えされます。やがて、受精卵は、卵管膨大部から子宮へ進んでいきます。
子宮に進んだ受精卵は、桑実胚(そうじつはい)、胚盤胞(はいばんほう)と呼ばれる段階を経て、やがて、胎芽(たいが)と呼ばれる突起物を形成します。そして、この胎芽ができあがる頃に、すでに厚みを増している子宮内膜にくい込み、ぴたりとそこに定着します。これが、着床と呼ばれる現象で、着床=妊娠の成立です。
受精卵が着床した子宮内膜は、やがて胎盤(たいばん)に変化していきます。胎盤とは、胎児に酸素や栄養を送る器官で、胎児が出産によって母胎から排出されるまでの間、ずっと胎児の育成係兼ゆりかごとして活躍していくのです。
以上、妊娠のしくみを追ってきましたが、この一連の過程をよく頭に入れておいてください。このサイトの他のページで、不妊の原因とか、不妊の治療などについてくわしく解説していますが、すべて、この一連の過程のいずれかに問題があるわけです。不妊症、不妊治療を考える上で、基礎となる知識なので、よく熟読しておいてください。
